第16回に引き続き、長年にわたりナラ枯れや里山管理の研究に携わり、現在は神戸市副市長として里山の広葉樹の資源活用による循環型社会の構築に取り組んでおられる黒田慶子氏をお迎えし、里山の管理・活用や資源循環に関する取り組みについてお話しいただきました。
講演では、「そもそも自然とは何か」という問いかけを起点に、日本の里山景観は長い年月をかけて人の手により形成されてきたこと、したがって人間も生態系の一部であり、「人間を排除した自然保護」では安定した状態を保ちにくいという考えが示されました。こうした背景から、日本人は欧米の「原生自然」を重視する保護観とは異なる視点を持つ必要があることが指摘されました。加えて、日本はヨーロッパに比べて南に位置し、植生が豊かで多様性に富むため、欧米の基準や議論がそのまま適用できるわけではないという点も強調されました。
かつて人々に利用・管理されて保たれてきた日本の里山の広葉樹林は、近年では放置が進み、病虫獣害や災害リスクの増加、生物多様性の低下といった問題が顕在化しています。これは生態系のアンバランスによるものであり、老齢化した森林では若木の成長が阻まれ、森林の持続性が危ぶまれる状況です。日本社会全体も高度経済成長期以降、「木を使い育てる循環型社会」から、輸入木材に依存し、森林の公益的機能を税金で維持するという構造へと変化しました。
このような現状を踏まえ、森林の持続可能性を回復するには、里山資源を活用して収益性を高め、経済循環に取り込むことが不可欠だと述べられました。そのためには、地方自治体や森林所有者だけでなく、企業やNPOなど多様な立場の関係者が連携し、森林資源を地場産業として育てていく必要があります。
これを実現するため、神戸市では、農村部から市街地までを含む地理的特性を活かし、家具会社との協業や、伐採前の資源把握と売買契約を可能にする流通システム改革など、さまざまな新たな取り組みが進められています。さらに、木材利用にとどまらず、獣肉活用やグリーンツーリズムなど による複合的な収益化への期待も紹介されました。これらの取り組みには、多様な主体によるネットワーク形成が重要であり、森林資源の利用促進を目指すネットワークへの参加・連携が呼びかけられました。
本セミナーは145名の方々にご参加いただき、大変盛況のうちに終了しました。
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