本勉強会では、「林業従事者にどこまで求める?『責任ある』森林管理」と題し、講師に本年度よりFSCジャパン理事(社会分野)に就任された愛媛大学 准教授 川﨑章惠氏を迎え、FM認証現場において特に不順守が多く見られる原則2:労働者の権利に焦点を当てて議論が行われました。
林業は、全産業平均の約10倍とも言われる高い労働災害発生率を抱えており、その労働環境はいまだ厳しい状況にあります。こうした背景を踏まえ、本勉強会では日本の林業労働の実態や構造的課題を整理し、FSC認証が果たし得る役割について掘り下げた視点が提供されました。
多角的視点から捉える日本の林業とFSC認証の意義
冒頭では、大都市から地方都市、農村部・山村部まで様々な環境に身を置いてきたご自身の経験により、日本社会や地域の多様性を俯瞰する社会学的視点が養われたこと、また、学生時代に出会った篤林家による古き良き林業の姿や、FSC製品が広く流通していた北欧での留学経験を振り返りながら、FSC認証が持つ意味や価値についても考察が示されました。
プレゼンテーションの主な内容
講演では、以下のような点について詳しく解説されました。
- 戦前の組頭制度から戦後の全林野闘争を経て現在に至るまでの、日本の林業労働形態の歴史的変遷
- 賃労働としての林業労働者と、土地を所有し長期的な投資・管理を行う森林所有者という二つの側面
- 造林・育林から収穫までに長い時間を要する林業特有の収益構造と、小規模林家における複合経営の実態
- 新規就業者確保と労働条件改善の必要性
- 2003年に始まった「緑の雇用」事業による人材育成の成果と、定着率の低さなどの課題
- 日給制を中心とした不安定な雇用形態、多重請負構造、高い労働災害発生率、個人請負人における安全装備の未徹底などの林業労働の課題
- 林業における多様な請負労働の実態と、労働法による保護が及びにくい構造的問題、そしてFSC FM認証において、こうした林業現場で働く人々に対し、労働者の権利や労働安全、環境配慮を担保していくことの重要性
本セミナーには119名の方々にご参加いただき、質疑応答でも林業の労働問題やFSC認証における社会的側面への関心の高さがうかがえる、非常に盛況な回となりました。
FSCジャパンでは、今後も責任ある森林管理の運用に役立つ、現場の実態や社会的課題に即した情報や議論の場の提供を継続してまいります。
