今回のテーマはジェンダー平等と多様性です。
FSCのグローバル戦略においてもジェンダー平等は重要な目標の一つに位置づけられていますが、林業分野に限らず、あらゆる産業に共通する普遍的なテーマです。林業は男性が多い産業ですが、男女比の偏りがそのまま差別を意味するわけではなく、認証審査でも審査しにくい要求事項のひとつでもあります。
本セミナーでは、NPO、研究者、林業現場の実務者という異なる立場の3名のスピーカーをお迎えし、講演およびパネルディスカッションを行いました。当日は106名が参加し、参加者からのコメントも交え、活発な議論が展開されました。
 

室田氏顔写真

講演①「ジェンダーバイアスに関する基礎知識」 室田美鈴 氏(NPO法人ジェンダーイコール)

まず、ジェンダー平等を推進するNPOジェンダーイコールで企業担当、ダイバーシティ経営コンサルタントとして様々な組織のDEI推進を支援されている室田氏から、ジェンダーに関する基礎概念を整理いただきました。

「ジェンダー」とは、社会・文化・宗教などによって形成される性別役割や期待を指します。「ジェンダーバイアス」は固定観念に基づく偏見や差別、「ジェンダーギャップ」は性別による社会的・経済的格差を意味します。

日本のジェンダーギャップ指数は依然として低位にあり、特に経済・政治分野での遅れが顕著です。女性の賃金水準は男性の約4分の3にとどまり、共働き家庭においても妻は夫の約3.4倍の時間を育児・家事に費やしている現状が紹介されました。「夫は仕事、妻は家庭」という性別役割分担意識は世代を超えて継承される傾向があり、家事育児分担割合や女性管理職比率(約10%前後)も大きくは改善していません。「性別役割分担意識は、意図的に意識・行動しなければ再生産され続ける」という点が強調されました。

後半では、ジェンダーに限らない「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」について解説がありました。バイアスは誰もが持ちうるものであり、自覚のないまま差別や排除につながる可能性があります。米国オーケストラでブラインド審査を導入した結果、女性団員が増加した事例などが紹介され、「まずは自らの特権性(マジョリティ性)とマイノリティ性を自覚すること」が出発点であると述べられました。

また、日本特有の“ハイコンテクスト文化”(文脈を読む文化)が多様性推進の障壁となる可能性にも触れ、意識的に言語化する「ローコンテクストなコミュニケーション」の重要性が提起されました。

佐藤氏顔写真

講演②「女性は森林を必要としている、林業は女性を必要としている」 佐藤宣子 氏(九州大学大学院 教授)

佐藤氏は、1980年に九州大学林学科へ入学された当時の体験から、日本林業におけるジェンダーの変遷を語られました。当時、林学分野の女子学生は珍しく、長年男性中心の業界で研究・教育活動を続けてこられました。

制度整備が十分でない中、子どもを連れてフィールドワークを行ったことや、「女性初の」「女性の意見を」と注目される一方で、「女なのに」「女だから」と言われてきたことなど、率直な実体験が共有されました。海外では女性研究者が多く、過度に意識しすぎない自然な配慮に感銘を受けたエピソードも紹介されました。

日本の林業では就業者に占める女性割合は減少傾向にあり、特に伐木・造材・集材分野では2%台と低水準にとどまっています。一方、相続の変化を背景に森林組合の女性組合員や女性役員は着実に増加していることが報告されました。

これに対しノルウェーでは、1974年の相続法改正や女性林業協議会の設立、協同組合理事のジェンダーバランス義務化など、制度改革と組織改革が並行して進められ、女性森林所有者の割合が着実に向上しました。こうした北欧の先進事例と比較すると、日本は30〜40年の遅れがあるとの指摘があり、まずはジェンダー統計の整備による「実態把握」が最優先課題であると述べられました。

さらに森林認証審査においても、
•    従業員の男女・年齢構成の把握
•    募集・応募・採用における男女比率
•    採用・離職の男女比率と理由
•    女性管理職登用への積極的評価
など、具体的な問いかけが可能ではないかとの提案がなされました。
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細島氏_顔写真

講演③「三井物産の森で働いてきて感じたこと」 細島彩起子 氏(三井物産フォレスト)

細島氏は、全国約4万5,000haの社有林を管理する三井物産フォレストでの実務経験をもとに、林業現場で働く女性としての実感を共有されました。

機械運転や地図読みなど、体力面に限らず林業で必要とされる技能には元々男性が得意とする分野が多い傾向はあるものの、「真面目に継続すれば必要な力は身につく」と語り、足りない部分は“伸びしろ”と捉える姿勢の重要性が強調されました。

現場で性差を強く感じた経験はあまりなく、「林業従事者自体が社会ではマイノリティであるため、性別よりも“個人”として見られる感覚がある」との率直な意見も共有されました。林業は「3K」や女性に厳しい仕事というイメージを持たれがちですが、実際は必ずしもそうではないという実体験が語られました。

一方で、転勤や緊急対応の多い働き方は、出産・育児・介護などのライフイベントとの両立に不安を感じる要素でもあるとのこと。ロールモデルとなる女性が少なく、将来像を具体的に描く難しさにも言及されました。持続可能なキャリア形成のためには、制度の確認や相談先の確保、将来設計を意識的に行う必要性が共有されました。

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、ジェンダー多様性のこれまでと現状、そして今後何ができるかという点について意見交換が行われました。
主な論点は以下のとおりです。

  • 林業は女性に厳しい仕事と思われがちだが、必ずしもそうとは限らない
  • 出産・育児期にはペースダウンが避けられない場合もあるが、無理をせず、ライフステージに応じた働き方を受容することが重要
  • 子育て後の世代では、女性がより力を発揮できる側面もある
  • 制度は整いつつあるが、組織風土が制度活用を阻む例もあり、風土改革が鍵となる
  • 女性森林所有者へのサポート体制の充実と、森林管理の魅力発信が必要
  • 性別のみならず、世代などでも多様な人がいることが相談しやすさ、支えやすさ、安心感につながる
  • 誰もが何らかの側面でマイノリティであり、その経験が他者理解につながる
  • 足りない部分は“伸びしろ”と捉え、得意分野や支えを持つことが重要

最後に、多様性推進のための具体的行動として、次の点が提案されました。
•    バイアスは誰もが持つという前提に立つ
•    マジョリティ性・マイノリティ性を自覚する
•    相手の話をそのまま受け止める
•    「わからないことは恐れずに聞く」姿勢を持つ
•    自分の職場が全員にとって働きやすいかを常に問い直す
 

ジェンダー平等は“女性の問題”ではなく、組織の持続可能性そのものに関わるテーマです。
林業に限らず、経営レベルでの可視化と対話が、今後ますます重要になることが確認されました。
 

260225FSCジェンダー勉強会_佐藤宣子氏発表資料_公開用.pdf
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